私たち人間はタスクを処理する際、無数の情報を脳で処理し、適切な行動をとる必要があります。机の上の紙を手にとる、内容を読んで理解する、記憶をたどって棚からファイルを取り出す、そこに紙をファイリングする…。小さなものも含めると、日々たくさんのタスクが発生します。これらの無数のタスクをどのように処理すべきか、どのように情報を整理すべきかというのは多くの人が悩むところだと思います。
そんなことを考えていたとき、数学の集合論的な考え方と仕事論の考え方は相性が良いのではないかと私は思いました。考えてみれば、上下関係のある組織は順序集合とみなすことができるし、タスクの分割は集合の分割ととらえることもできます。
というわけで、集合論的仕事論を展開してみようと思います。なお、この記事を読むことによって、仕事への理解は深まるかも知れませんが、年収が上がるとは限りませんので、ご了承ください。
集合とは何か
数学でいう集合とは、簡単にいうと「ものの集まり」のことです。例えば、\(10\) 以上のすべての整数の集まりは集合ですし、ある二次関数のすべての接線の集まりも集合といえます。ここで、数学においては、その範囲が明確でないものは集合ではありません。例えば「背が高い日本人の集まり」は、身長が何センチ以上であれば「背が高い」のかがはっきりしないので、集合ではありません。一般に、ある集合 \(A\) を考えたとき、「\(x\) は \(A\) に属する」か「\(x\) は \(A\) に属さない」かのどちらか一方のみが成り立ちます。「\(x\) は \(A\) に属する」とき、\(x\) は \(A\) の元(げん)あるいは要素であるといい、記号では「\(x \in A\)」あるいは「\(A \ni x\)」と書きます。
また、ここでは簡単に「ものの集まり」のことを「集合」と定義しましたが、この定義だと(「集合」の範囲が広すぎて)矛盾が生じることが知られています(これについて詳しく知りたい人は、例えば「ラッセルのパラドックス」で検索してみてください)。しかしながら、厳密な集合の定義を述べるのはこの記事の趣旨にそぐわないので、あまり深入りしないことにします。この記事で「集合」という言葉が出てきたら「ものの集まり」のことだと思っていただいて大丈夫です。
さて、数学における「集合」の定義は上述のとおりですが、日常生活においても「集合」の考え方は有用だと思われます。例えば、「動物の集合」や「人間の集合」というものを考えることができそうですし、「B さんの家の中にあるすべての家具の集合」や「B さんの連絡先の集合」というものも考えることができそうです。
集合の包含関係
\(A\) と \(B\) を集合とします。\(A\) のすべての元が \(B\) の元でもあるとき、「\(A\) は \(B\) の部分集合である」、「\(A\) は \(B\) に含まれる」、「\(B\) は \(A\) を含む」などといい、記号では「\(A \subset B\)」あるいは「\(B \supset A\)」と書きます。例えば、負でない偶数の集合は整数の集合に含まれます。また、有理数の集合は実数の集合の部分集合です。日常生活の例でいうと、鳥の集合は動物の集合に含まれます。これを記号で書くと、次のようになります:
鳥の集合 \(\subset\) 動物の集合
仕事では、具体と抽象の間を行ったり来たりすることが必要な場合がありますが、これは集合の包含関係の考え方と相性が良さそうです。例えば、「休暇届の集合」は「書類の集合」に含まれますし、「筆記用具の集合」は「ボールペンの集合」を含みます。会社の同僚に「書類を取ってください」と言うのと「休暇届を取ってください」と言うのでは、後者のほうが適切な場合が多い気がします。もちろん、「休暇届」を指差しながら「その書類を取ってください」と言っても良いとは思います。
写像
\(A\) と \(B\) を集合とします。\(A\) のすべての元 \(a\) に対して、 \(B\) のひとつの元 \(b\) を対応させる規則 \(f\) を「\(A\) から \(B\) への写像」といい、記号では次のように書きます:
\[
f: A \to B
\] \(A\) の各元 \(a\) に対して、それに対応する \(B\) の元が \(b\) であるとき、
\[
f(a) = b \quad または \quad f: a \mapsto b
\] と書きます。例えば、次で定義される \(g\) は整数の集合 \(\mathbb{Z}\) から有理数の集合 \(\mathbb{Q}\) への写像となっています。
すべての \(z \in \mathbb{Z}\) に対して, \(g(z) = \frac{z}{2}\)
もう少し生活感のある例を出します。\(X\) を銀行口座を持っているアメリカ人の集合とし、\(Y\) を \(0\) 以上の実数の集合とします。このとき, \(h: X \to Y\) を
\[
h(x) = (x \ さんのすべての銀行口座の残高の和)
\] で定義すると, \(h\) は写像となっています。

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