皆さん, こんにちは. 管理人です. 今回は, 多項式の除法の原理について述べたいと思います.
定理
\(R\) を整域, \(d(X) \in R[X]\) をモニック多項式とする. 任意の \(R\) 上の多項式 \( f(X) \in R[X] \) に対して, 多項式 \(q(X), r(X) \in R[X] \) であって,
\[
f(X) = d(X)q(X) + r(X) \ \ かつ \ \ \deg r(X) < \deg d(X)
\] を満たすものが一意的に存在する.
証明
存在の証明
まずは条件を満たす多項式 \(q(X), r(X) \in R[X]\) の存在を背理法で示す. 多項式 \(f(X) \in R[X]\) であって, 任意の多項式 \(q(X), r(X) \in R[X]\) に対して,
\begin{equation}
f(X) \neq d(X)q(X) + r(X) \ \ または \ \ \deg r(X) \geq \deg d(X)
\end{equation} を満たすもの全体の集合 \(A\) は空ではないと仮定する. ここで \(0 \in A\) であると仮定すると, \(q(X) = 0, r(X) = 0\) とおけば \(0 = d(X)q(X) + r(X)\) かつ \(\deg r(X) = -\infty < \deg d(X)\) となってしまうので, \(0 \notin A\) である. ゆえに \(f(X) \in A\) ならば \(\deg f(X) \geq 0\) である. よって, \(\{\deg f(X) | f(X) \in A\} \subset \mathbb{Z}_{\geq 0}\) . したがって, 空ではない集合 \(\{\deg f(X) | f(X) \in A\}\) は最小値 \(m\) をもつ. よって, ある \(\alpha(X) \in A\) が存在して \(\deg \alpha(X) = m\) となる. すると, 任意の多項式 \(q(X), r(X) \in R[X]\) に対して,
\begin{equation}
\alpha(X) \neq d(X)q(X) + r(X) \ \ または \ \ \deg r(X) \geq \deg d(X)
\end{equation} が成り立つ. ここで, \(d(X) | \alpha(X)\) と仮定すると, ある \(\beta(X) \in R[X]\) が存在して \(\alpha(X) = d(X) \beta(X)\) となるので, \(q(X) = \beta(X), r(X) = 0\) とすれば,
\[
\alpha(X) = d(X)q(X) + r(X) \ \ かつ \ \ \deg r(X) < \deg d(X)
\] となってしまう. ゆえに \(d(X) \nmid \alpha(X)\) である. また, \(\deg \alpha(X) < \deg d(X)\) とすると, \(q(X) = 0, r(X) = \alpha(X)\) とおけば,
\[
\alpha(X) = d(X)q(X) + r(X) \ \ かつ \ \ \deg r(X) < \deg d(X)
\] となってしまう. したがって, \(\deg \alpha(X) \geq \deg d(X)\) である. ここで \(n = \deg d(X)\) とおくと, \(m \geq n\) であり,
\begin{align}
\alpha(X) &= \sum_{k = 0}^m a_k X^k \\
d(X) &= \sum_{k = 0}^n b_k X^k
\end{align} と書くことができる. ただし, \(a_1, a_2, \cdots, a_m \in R\) かつ \(a_m \neq 0\) かつ \(b_1, b_2, \cdots, b_n \in R\) であり, 多項式 \(d(X) \in R[X]\) はモニックなので \(b_n = 1\) である.
さて, 多項式 \(a_m X^{m-n} d(X) = \sum_{k = 0}^n a_m b_k X^{m-n+k}\) の最高次の項は \(a_m X^m\) であるので, \(\alpha_1(X) = \alpha(X)-a_m X^{m-n} d(X)\) の次数は \(m\) より小さい. また, \(d(X) \nmid \alpha(X)\) なので, \(\alpha_1(X)\) は \(0\) ではない. \(\deg \alpha_1(X) < m\) より \(\alpha_1(X) \notin A\) となるので, \(q_1(X), r_1(X) \in R[X]\) が存在して
\[
\alpha_1(X) = d(X)q_1(X) + r_1(X) \ \ かつ \ \ \deg r_1(X) < \deg d(X)
\] となる. したがって,
\begin{align}
\alpha(X) &= \alpha_1(X) + a_m X^{m-n} d(X) \\
&= d(X)q_1(X) + r_1(X) + a_m X^{m-n} d(X) \\
&= d(X) (q_1(X) + a_m X^{m-n}) + r_1(X)
\end{align} であり, かつ \(\deg r_1(X) < \deg d(X)\) が成り立つが, これは \(\alpha(X) \in A\) であることに矛盾する. ゆえに, 条件を満たす多項式 \(q(X), r(X) \in R[X]\) の存在が示された.
一意性の証明
次に, 条件を満たす多項式 \(q(X), r(X) \in R[X]\) の存在の一意性を示す. そのために, \(q(X), r(X) \in R[X]\) であって
\[
d(X)q(X) + r(X) = 0 \ \ かつ \ \ \deg r(X) < \deg d(X)
\] ならば \(q(X) = r(X) = 0\) であることを示す. \(d(X)q(X) = -r(X)\) なので,
\begin{equation}
\deg r(X) = \deg(d(X)q(X)) = \deg d(X) + \deg q(X) > \deg r(X) + \deg q(X)
\end{equation} となる. ゆえに \(0 > \deg q(X)\). したがって \(q(X) = 0\) となる. よって, \(r(X) = -d(X)q(X) = 0\) となる.
さて, 多項式 \(f(X) \in R[X]\) を任意にとって固定する. \(q_1(X), r_1(X) \in R[X]\) が存在して
\[
f(X) = d(X)q_1(X) + r_1(X) \ \ かつ \ \ \deg r_1(X) < \deg d(X)
\] であるとする. 同様に, \(q_2(X), r_2(X) \in R[X]\) が存在して
\[
f(X) = d(X)q_2(X) + r_2(X) \ \ かつ \ \ \deg r_2(X) < \deg d(X)
\] であるとする. すると,
\begin{gather}
d(X)(q_1(X)-q_2(X)) + (r_1(X)-r_2(X)) = 0 \\
かつ \\
\deg(r_1(X)-r_2(X)) < \deg d(X)
\end{gather} が成り立つ. したがって \(q_1(X)-q_2(X)=r_1(X)-r_2(X)=0\) である. ゆえに \(q_1(X) = q_2(X)\) かつ \(r_1(X) = r_2(X)\) となる. よって一意性が示された.
参考
プチ小技集:除法の原理(龍孫江の数学日誌 in YouTube):
https://www.youtube.com/watch?v=KHKZq57_zQQ
Division Theorem for Polynomial Forms over Field (ProofWiki):
https://proofwiki.org/wiki/Division_Theorem_for_Polynomial_Forms_over_Field
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