【大学数学】有理整数環から有理数体を構成する方法

皆さん, こんにちは. 管理人です. 今回は, 大学と大学院(修士課程)で数学を専攻した私が, 有理整数環 Z を使って有理数体 Q を定義する方法を述べたいと思います. 要するに, 整数を使って有理数を定義しようというわけです. わりと丁寧かつ厳密に述べたつもりです.

なお, 直積集合, 同値関係, 環, 体などの用語(の定義や性質)についてはすでに知っているものとして話を進めます.

とある直積集合上の同値関係

まずは次のような集合 A を考えます.
A:=Z×(Z{0})={(a,b)aZ, bZ, b0}. ここで, 集合 A 上の二項関係 を次のように定めます. (a,b),(c,d)A に対して,
(a,b)(c,d)ad=bc. 例えば, 2×3=1×6 なので (2,1)(6,3) ですし, 5×43×6 なので (5,3)(6,4) です.

【命題】集合 A 上の二項関係 A 上の同値関係である.

【証明】
反射律: 任意の (a,b)A に対して, ab=ba より (a,b)(a,b).

対称律: (a,b)A, (c,d)A, (a,b)(c,d) とする. このとき ad=bc なので cb=da が成り立つ. ゆえに (c,d)(a,b) である.

推移律: (a,b),(c,d),(e,f)A とする. (a,b)(c,d) かつ (c,d)(e,f) が成り立つとすると, ad=bc かつ cf=de であり,
afd=adf=bcf=bde=bed が成り立つ. ゆえに (afbe)d=0 である. Z は整域なので afbe=0 または d=0 であるが, (c,d)A より d0 であるから afbe=0 が成り立つ. したがって af=be より (a,b)(e,f) が成り立つ.

以上より, A 上の同値関係である.(証明終了)

商集合の上に加法と乗法を定める

さて, 集合 A 上の二項関係 は同値関係であることがわかりましたので, 商集合
A/={[(a,b)](a,b)A} を考えることができます. ここで (a,b)A に対して ab を次のように定めます.
ab:=[(a,b)]. ここで Q=A/ と定義します. 集合 Q 上に次のように加法 + と乗法 × を定めます. ab,cdQ に対して,
(1)ab+cd:=ad+bcbd(2)ab×cd:=acbd なお, この定義において b,dZ{0} であるので bdZ{0} であることに注意しましょう.

次に, この定義が well-defined であることを証明します.

【証明】まずは加法が well-defined であることを示す. ab,cdQ とする. さて, ab=ab かつ cd=cd であるとする. このとき, [(a,b)]=[(a,b)] かつ [(c,d)]=[(c,d)] が成り立つので, (a,b)(a,b) かつ (c,d)(c,d) である. ゆえに, ab=ba かつ cd=dc が成り立つ. ここで,
(ad+bc)bd=adbd+bcbd=abdd+bbcd=badd+bbdc=bdad+bdbc=bd(ad+bc) であるので, (ad+bc,bd)(ad+bc,bd) が成り立つ. よって [(ad+bc,bd)]=[(ad+bc,bd)] すなわち
ad+bcbd=ad+bcbd が成り立つ. したがって, 上で定めた加法 + は well-defined である.

次に乗法が well-defined であることを示す. ab,cdQ とする. さて, ab=ab かつ cd=cd であるとする. このとき, 先ほどと同様にして ab=ba かつ cd=dc が成り立つ. ここで,
acbd=abcd=badc=bdac であるので, (ac,bd)(ac,bd) が成り立つ. よって [(ac,bd)]=[(ac,bd)] すなわち
acbd=acbd が成り立つ. ゆえに, 上で定めた乗法 × は well-defined である.(証明終了)

商集合 Q は体となる

まずは次のいくつかの補題を示します.

【補題 1】任意の abQ および任意の cZ{0} に対して,
ab=acbc が成り立つ.

【補題 1 の証明】任意の abQ および任意の cZ{0} をとる. このとき, abc=bac であるから, (a,b)(ac,bc) である. したがって [(a,b)]=[(ac,bc)] すなわち
ab=acbc が成り立つ.(証明終了)

【補題 2】任意の cZ{0} に対して,
01=0c.

【補題 2 の証明】任意の cZ{0} をとる. 補題 1 を用いると,
01=0c1c=0c. (証明終了)

【補題 3】任意の a,bZ および任意の cZ{0} に対して,
ac+bc=a+bc が成り立つ.

【補題 3 の証明】任意の a,bZ および任意の cZ{0} に対して,
ac+bc=ac+cbcc=(a+b)ccc=a+bc である. なお, 3 番目の等号では補題 1 を用いた. (証明終了)

【定理】(1) と (2) で定めた加法と乗法により Q は体となる.

【証明】
(R1) 加法 + に関して Q は可換群となる. 実際, 任意の x,y,zQ に対して (a,b),(c,d),(e,f)A が存在して x=ab, y=cd, z=ef と書くことができて,
(x+y)+z=(ab+cd)+ef=ad+bcbd+ef=(ad+bc)f+bdebdf=adf+bcf+bdebdf,x+(y+z)=ab+(cd+ef)=ab+cf+dedf=adf+b(cf+de)bdf=adf+bcf+bdebdf より (x+y)+z=x+(y+z) が成り立つ. よって, + について結合法則が成り立つ. また, Q において 0Q:=01Q が加法に関する単位元となる. 実際, 任意の xQ に対して (a,b)A が存在して x=ab と書くことができて,
x+0Q=ab+01=a1+b0b1=ab=x,0Q+x=01+ab=0b+1a1b=ab=x  となる. また, 任意の xQ をとると, ある (a,b)A が存在して x=ab となるわけであるが, x=ab と定めると,
x+(x)=ab+ab=a+(a)b=0b=01=0Q,(x)+x=ab+ab=(a)+ab=0b=01=0Q  が成り立つ. ゆえに, 任意の xQ に逆元が存在することが示された. 以上により, 加法 + に関して Q は群となることが示された. 最後に交換法則が成り立つことを示せばよい. 任意の x,yQ に対して, (a,b),(c,d)A が存在して x=ab および y=cd と書くことができて,
x+y=ab+cd=ad+bcbd=cb+dadb=cd+ab=y+x が成り立つ. 以上により, 加法 + に関して Q は可換群となることが示された.

(R2) 次に, 乗法 × に関して Q は単位元を持つ可換半群となることを示す. まずは × に関する結合法則であるが, 任意の x,y,zQ に対して, (a,b),(c,d),(e,f)A が存在して x=ab かつ y=cd かつ z=ef と書くことができて,
(x×y)×z=(ab×cd)×ef=acbd×ef=(ac)e(bd)f=a(ce)b(df)=ab×cedf=ab×(cd×ef)=x×(y×z) より成り立つ. 次に × に関する単位元の存在であるが, 1Q:=11 が単位元となる. 実際, 任意の xQ に対して x=ab と書くことができて,
x×1Q=ab×11=a1b1=ab=x,1Q×x=11×ab=1a1b=ab=x  となる. 次に交換法則であるが, 任意の x,yQ に対して x=ab,y=cd と書くことができて,
x×y=ab×cd=acbd=cadb=cd×ab=y×x となる. よって, Q× に関して単位元を持つ可換半群となることが示された.

(R3) 次に, Q において分配法則が成り立つことを示す. 任意の x,y,zQ に対して, (a,b),(c,d),(e,f)A が存在して x=ab かつ y=cd かつ z=ef と書くことができて,
x×(y+z)=ab×(cd+ef)=ab×cf+dedf=a(cf+de)bdf=acf+adebdf=acfbdf+aedbfd=acbd+aebf=ab×cd+ab×ef=x×y+x×z より左分配法則が成り立つ. 右分配法則については, 任意の x,y,zQ に対して, 上で示した × についての交換法則および左分配法則を使うと,
(x+y)×z=z×(x+y)=z×x+z×y=x×z+y×z となるので成り立つ.

(R4) 最後に, Q{0Q} の任意の元に対して, 乗法 × に関する逆元が存在することを示す. 任意の xQ{0Q} をとる. このとき, xQ より, aZbZ{0} が存在して x=ab と書くことができる. ここで a=0 と仮定すると,
x=0b=01=0Q となるが, これは xQ{0Q} であることに反する. ゆえに a0 であり, aZ{0} である. したがって, (b,a)A であり, baQ となる. y=ba とおくと, yQ であり,
x×y=ab×ba=abba=1ab1ab=11=1Q,y×x=x×y=1Q となる.(なお, y=0Q であると仮定すると, ba=01 であり, [(b,a)]=[(0,1)] より (b,a)(0,1)b1=a0b=0 となるが, これは bZ{0} であることに反する. よって y0Q であり, yQ{0Q} となる. )

以上, (R1), (R2), (R3), (R4) より, Q は体となることが示された.(証明終了)

有理整数環 ZQ の部分環とみなすことができる

【命題】有理整数環 Z から Q への環準同型写像であって, 単射であるものが存在する.

【証明】写像 φ:ZQ
φ(n)=n1 で定義する.

まず, φ が環準同型写像であることを示す. 任意の a,bZ に対して, 補題 3 を次の式変形の途中で用いると,
φ(a+b)=a+b1=a1+b1=φ(a)+φ(b) となる. また, 任意の a,bZ に対して,
φ(ab)=ab1=ab11=a1×b1=φ(a)×φ(b) が成り立つ. また,
φ(1)=11=1Q となる. よって, φ は環準同型写像である.

最後に, φ が単射であることを示せば証明が終わる. そのためには, Ker φ={0} を示せば良い. Ker φ{0} は明らか. Ker φ{0} を示すために, 任意の aKer φ をとる. φ(a)=0Q より a1=01 が成り立つ. よって [(a,1)]=[(0,1)] である. ゆえに (a,1)(0,1) である. したがって, a1=10 である. ゆえに, a=0{0} となる. よって, Ker φ{0} が成り立つ. したがって Ker φ={0} である.(証明終了)

コメント

  1. 管理人 より:

    有理数体 Q の順序、つまり二つの有理数 ab の大小関係については、精神的に余裕が生まれたときに書こうかと思っております.

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