皆さん, こんにちは. 今回は数学の話題となります. Don Zagier による一文証明の中で「対合写像」(たいごうしゃぞう, または, ついごうしゃぞう)というものが出てくるのですが, 今回は, これについての定義を述べたあと, なぜこれが不動点またはペアを作るのか, ということを述べようと思います(集合論を学んでいるであろう数学科の大学一, 二年生の方に対しては, 良い演習問題となるかも知れません).
対合写像の定義
ここからは \(X\) を集合とします. 写像 \(f: X \rightarrow X\) が \(f \circ f = \textrm{id}_X\) を満たすとき(すなわち, \(\forall x \in X\) に対して \(f(f(x)) = x\) を満たすとき), \(f\) を対合写像といいます. 対合写像は全単射となります.
【対合写像が全単射となることの証明】
\(f: X \rightarrow X\) を対合写像とします. まずは \(f\) が単射であることを示します. \(a, b \in X\) として, \(f(a) = f(b)\) とします. このとき,
\[
a = f(f(a)) = f(f(b)) = b
\] なので, \(f\) は単射です. 次に \(f\) は全射であることを示します. \(\forall y \in X\) に対して, \(x = f(y)\) とおくと, \(x \in X\) であり,
\[
f(x) = f(f(y)) = y
\] となります. ゆえに, \(f\) は全射です.
以上により, \(f\) は全単射であることが示されました.
対合写像から定まる同値関係
ここからは写像 \(f: X \rightarrow X\) を対合写像とします. 集合 \(X\) 上の二項関係 \(\sim\) を
\[
x_1 \sim x_2 \Longleftrightarrow \big(x_1 = x_2 \ または \ x_1 = f(x_2)\big)
\] で定義します.
【命題】上で定めた \(\sim\) は \(X\) 上の同値関係となります.
【証明】
反射律:\(\forall x_1 \in X\) に対して, \(x_1 = x_1\) より \(x_1 \sim x_1\) です.
対称律:\(x_1, x_2 \in X\) が \(x_1 \sim x_2\) を満たすとします. このとき, \(\sim\) の定義より \(x_1 = x_2\) または \(x_1 = f(x_2)\) です. [case 1] \(x_1 = x_2\) のときは \(x_2 = x_1\) となるので, \(x_2 \sim x_1\) となります. [case 2] \(x_1 = f(x_2)\) のときは, \(x_2 = f(f(x_2)) = f(x_1)\) より \(x_2 \sim x_1\) となります. よって, [case 1], [case 2] いずれの場合も \(x_2 \sim x_1\) となります.
推移律:\(x_1, x_2, x_3 \in X\) とします. さらに \(x_1 \sim x_2\) かつ \(x_2 \sim x_3\) であるとします. \(x_1 \sim x_2\) より, \(x_1 = x_2\) または \(x_1 = f(x_2)\) となります. [case 1] \(x_1 = x_2\) のとき, \(x_2 \sim x_3\) より \(x_1 \sim x_3\) となります. [case 2] \(x_1 = f(x_2)\) のとき, \(x_2 \sim x_3\) より
\[
x_2 = x_3 \ \ \textrm{または} \ \ x_2 = f(x_3)
\] が成り立つので,
\[
f(x_2) = f(x_3) \ \ \textrm{または} \ \ f(x_2) = f(f(x_3)) = x_3
\] となります. したがって,
\[
x_1 = f(x_3) \ \ \textrm{または} \ \ x_1 = x_3
\] が成り立ちます. ゆえに, \(x_1 \sim x_3\) となります. よって, [case 1], [case 2] いずれの場合も \(x_1 \sim x_3\) となります.
以上により, \(\sim\) は \(X\) 上の同値関係となります.
同値関係による商集合
さて, 上で定めた \(\sim\) は \(X\) 上の同値関係であることが示されたので, 商集合 \(X/{\sim}\) を考えることができます. ここで, \(c \in X/{\sim}\) として, \(x \in c\) とすると, \(c = [x]\) となるわけですが,
\begin{align}
y \in c &\Longleftrightarrow y \in [x] \\
&\Longleftrightarrow y \sim x \\
&\Longleftrightarrow \big( y = x \ \ \textrm{または} \ \ y = f(x) \big) \\
&\Longleftrightarrow y \in \{x, f(x)\}
\end{align} となります. したがって, \(c = \{x, f(x)\}\) と書くことができます. ここで, \(x \neq f(x)\) ならば \(|c| = 2\) であり, \(x\) と \(f(x)\) がペアとなります. また, \(x = f(x)\) ならば \(x\) は \(f\) の不動点であり, \(|c| = 1\) となります.
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